東京地方裁判所 昭和36年(刑わ)521号 判決 1961年12月05日
判 決
本籍
東京都港区赤坂青山南町五丁目三十八番地
住居
同都目黒区上目黒一丁目二百十四番地
無職
野宮隆一郎
昭和十五年一月二十二日生
本籍
愛媛県周桑郡小松町大字新屋敷甲三百四十一番地
住居
東京都渋谷区穏田町三丁目七十七番地晴光荏内
無職
ドスキンこと
首藤省三
昭和十六年十月三十一日生
右被告人野宮隆一郎に対する決闘挑応、賍物収受、被告人首藤省三に対する決闘挑応、銃砲刀剣類等所持取締法違反、恐喝各被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
被告人両名をそれぞれ懲役十月に処する。
被告人両名に対し、未決勾留日数中各百日を、それぞれ右本刑に算入する。
訴訟費用中、証人清水川勝彦に支給した分を除いて、その二分の一を被告人野宮隆一郎の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人野宮隆一郎は、東京都渋谷方面を繩張りとする不良団体の安藤組宇田川派金井新吉の、被告人首藤省三は、同組大和田派北条一誠の各舎弟であるが、
第一、被告人野宮は、昭和三十六年四月二十三日頃、右宇田川派の先輩堀江成雄らから、被告人野宮の兄弟分である同派の花田鴻史が大和田派の者に殴られた件に関し、「鴻史が殴られたのを傍で見ていたそうじやないか」などと事実に反する非難を受けて不満に思つていたところ、たまたま同日午後十一時頃、同都渋谷区宇田川町七十九番地喫茶店マイアミ前路上で、大和田派の前田鉄志、被告人首藤ら数名に出くわしたので、同人らに右花田鴻史が殴られた現場に自分がいたかどうかを問い質した。すると、被告人首藤が、「誰がそんなことをいつたのだ、大和田の者がチンコロした(嘘をいつたとの意味)みたいで面白くない」と喧嘩腰でからんで来たので憤激し、「俺が静かに話しているのにそんなに喧嘩腰でくるならやつてやるぞ」と怒鳴つたところ、被告人首藤も、「上等だ、やろうじやねえか」とこれに応ずる気勢を示したので、被告人野宮は、「じやこつちへ来い、この野郎」といつて、同所から約七、八十米離れた同町三番地先空地へ首藤を先導しながら、道々「がきみたいな喧嘩じやしようがないから、どつちか倒れるまでやろうじやないか」と申し向けて決闘を挑み、被告人首藤もそれに対して、「やるならやつてやろう」と応答し、被告人野宮に従つて右空地に着き、上衣を脱いで背中に背負うようにして持つていた黒鞘の日本刀(刃渡約二十五糎)を取り出して抜き放ち、宇田川派の仲間である山崎睦義から渡された刺身庖丁を手にした被告人野宮と相対峙してその挑みに応じ、
第二、被告人首藤は、その際、法定の除外事由がないのに、第一記載の日時、同記載の空地において、刃渡り約二十五糎の前記黒鞘付日本刀一振を所持し、
第三、被告人野宮は、昭和三十六年四月三十日、当時寄宿していた東京都目黒区上目黒二丁目千九百六十八番地天城荏内三原晃夫の居室において、加藤正明から、同人や右三原らが他から窃取して来た賍物であることを知りながら、レコード百五十七枚(時価二十四万二千九百円相当)を貰い受け、もつて賍物の収受をなし、
第四、被告人首藤は、前記大和田町付近一帯でパチンコの景品買をやつていた際知り合つた清水川勝彦(当時二十四年)から、以前に盗品である撮影機一台の売却方を依頼されたことがあつたが、昭和三十六年五月一日頃の午後八時頃、東京都渋谷区大和田町三十番地井ノ頭線ガード下付近のパチンコ店に、同人が再び盗品であるジエルコ八ミリ撮影機一台(時価一万五千円相当)を売却処分するため持参して来たのをみて、盗品を所持する同人の弱みにつけ込んでこれを喝取しようと企て、右同所付近の路上において、同人に対し、「なんだ、また持つて来たのか、いいから見せろ」といつて同人が所持する撮影機を提供するよう要求したところ、かえつて同人から以前に売却を依頼された撮影機の代金を請求されるとともに、「金をくれなければ渡せない」と拒絶されたので、「俺をなめるのか、ただではおかないぞ」等と申し向け、もしこれに応じないときはどんな危害を加えられるかも知れないと同人を畏怖させて、この場で同人から同人が保管する右ジエルコ八ミリ撮影機一台の交付を受けてこれを喝取し
たものである。
(証拠の標目)<省略>
(累犯となるべき前科等)
被告人野宮は、昭和三十四年四月二十七日東京地方裁判所で、恐喝罪により懲役十月以上一年六月以下に処せられ、昭和三十五年八月十三日その刑の執行を受け終つたものであつて、右の事実は、被告人野宮の司法警察員に対する昭和三十六年五月一日付供述調書、前科調書及び指紋照会回答書によつて認める。
(法令の適用)
被告人野宮の判示所為中、第一の決闘を挑んだ点は決闘罪ニ関スル件第一条、刑法施行法第十九条、同第二条に、第三の賍物収受の点は刑法第二百五十六条第一項に各該当するところ、被告人野宮には前示の前科があるから同法第五十六条第一項、第五十七条によつて累犯の加重をし、右第一及び第三の罪は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条、第十条により重い賍物収受の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人野宮を懲役十月に処し、被告人首藤の判示所為中、第一の決闘に応じた点は決闘罪ニ関スル件第一条、刑法施行法第十九条、同第二条に、第二の銃砲刀剣類等不法所持の点は銃砲刀剣類等所持取締法第三条第一項、第三十一条第一項第一号に、第四の恐喝の点は刑法第二百四十九条第一項にそれぞれ該当するところ、右第二の銃砲刀剣類等所持取締法違反の罪については懲役刑を選択し、以上第一、第二及び第四の各罪は刑法第四十五条前段により併合罪であるから、同法第四十七条、第十条により最も重い第四の恐喝罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人首藤を懲役十月に処することとし、被告人両名に対し、いずれも同法第二十一条により未決勾留日数中百日をそれぞれ右各本刑に算入し、訴訟費用については、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により、清水川勝彦に支給した部分を除いてこれを二分し、その二分の一を被告人野宮に負担させ、その余は、被告人首藤が貧困のためこれを納付することができないと考えられるので、同条同項但書により同被告人に負担させないこととする。
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、判示第一の決闘罪について、被告人らの行為は決闘罪ニ関スル件にいうところの決闘挑応の構成要件に該当せず、単なる喧嘩であるにすぎない、即ち、いわゆる決闘罪の決闘の要件としては、(一)争闘者間に決闘についての合意が存すること、(二)殺傷行為により優劣を争うこと、(三)毀損された名誉の回復のためであることの三つの要件を必要とするのであるが、本件事案は、右(一)及び(三)の各要件に欠けており、決闘の構成要件を充足していないと主張するので、この点についての判断を付加することとする。
決闘の意義については、決闘罪ニ関スル件(明治二十二年法律第三十四号)においてこれを明らかにしていないのであるが、判例によれば、決闘とは、当事者間の合意により相互に身体又は生命を害すべき暴行をもつて争闘する行為を汎称するものであると解せられ(大審院大正十三年十月十日判決、刑事判例集三巻六五四頁、同明治四十年十月十四日判決、刑事判決録二七巻二九八〇頁、最高裁判所昭和二十六年三月十六日判決、刑事判例集五巻七五七頁)、当裁判所も、右見解に従うのが正当であると考えるものであるから、決闘の要件としては、弁護人主張のような(一)乃至(三)の要件を必要としないものというべきである。
次に、判示第一の事実の認定について挙示した各証拠を総合すれば、同判示のように、被告人野宮が、判示のような原因から、判示空地へ被告人首藤を先導しながら、「がきみたいな喧嘩じやしようがないから、どつちか倒れるまでやろうじやないか」といい、被告人首藤がこれに対し、「やるならやつてやろう」と答え、右空地において、判示のように、互に刃物を持つて対峙した事実が認められ、このような事実関係からみれば、右決闘の要件である相互に身体又は生命を害すべき暴行をもつて争闘する合意が成立したものと解するに十分である。
以上判断のとおり、弁護人の主張は、その理由がないから、これを採用することはできない。
よつて、主文のとおり判決する。
検察官 飯村六郎出席
昭和三十六年十二月五日
東京地方裁判所刑事第十五部
裁判官 真 野 英 一